地球を生かす水の不思議

水に生かされている地球

 水素Hは宇宙に最も多い元素です。酸素Oも水素やヘリウムほどではありませんが、炭素や鉄と並んで沢山ある元素のひとつです。その、水素と酸素が出会うと簡単に「水」H2Oができます。宇宙の中には「水」H2Oがたっぷりあってもよいのですが、そうではありません。宇宙でよくみられるH2Oは氷です。彗星は「汚れた雪だるま」と言われるように、氷と岩石のかけらと埃が固まったものです。彗星が太陽に近づいて温められると、氷の一部が蒸発します。液体の水にはなりません。水蒸気は宇宙線にさらされると水素と酸素に分かれてしまい。水素は軽いので、星の引力から逃れて、宇宙に広がっていきます。

 時々、地球の外の天体に、「水」がある、もしくはかつてあったということが話題になります。この時の「水」は液体です。液体の水は、地球のような極めて特殊な条件のある所にしか存在しません。

 温度が0℃をある程度下回ると氷になってしまいます。0℃は冷たいように思われますが、絶対温度では273K(ケルビン)ですから、結構暖かいとも言えます。宇宙空間の温度は平均で3Kぐらいといわれていますので、氷が解けることのできる場所は、宇宙の中では限られています。温度が高くても、水が存在するには、大気で押さえ込まれている必要があります。大気圧が低いと、温度が少し上がっただけで、水蒸気になってしまいます。大気圧が大きければ幅広い温度条件で存在できますが、374℃(647K)が臨界ですから、それ以上の温度があれば、大きな圧力で抑えられていても、もはや水ではなくなります。ただし、この高温・高圧の水蒸気は、密度が高いので、液体の水と同じような働きができます。

 月や火星には大気、すなわち気圧がないので水は存在しにくく、金星は高温で水蒸気になっています。液体の水が存在できる条件は極めて限られています。たっぷりと水がある地球は、特別な星なのです。

液体の水は、氷や水蒸気にはない働きができます。それはさまざまなものを取り込んで運ぶことができます。水はトラックのようなものです。氷はその中にさまざまなものをいくらでも取り込むことができます。でも普通は流れることができませんので、氷は運ぶことはできません。水蒸気は流れることができますが、通常、自身が希薄であるため、ほかのものを多く取り込むことはできません。高い圧力で圧縮された高温の水蒸気は例外ですが。

 水のない世界を想像してみてください。木も草も花もなく、動物どころか、どんな生物も存在できないでしょう。人の体の中には、血液やリンパ液などが流れ、それが栄養や酸素やホルモンなどを運んで命が維持されます。生き物にとって、水が大切なように、地球も水があることで生きているといえます。

地下深部に広がる塩水

 地球の中に大きな水の流れがあります。学術調査や温泉開発などで深いボーリングを掘削すると塩水が確認されることが少なくありません。堆積岩の中の塩水は「化石水」、地層が海底に堆積したときに、取込まれた海水と考えられます。それ以外でも、地下深部には塩水が多いようです。「有馬型温泉(塩水)」と呼ばれる、海水の2倍もの塩を含む温泉も、湧き出しています。

 地球表面付近の岩盤の動き、プレートテクトニクスによれば、海洋底に堆積した土砂は海底の岩盤に乗って、大陸の厚い岩盤の下に押し込まれていきます。その土砂には大量の海水が含まれているので、それは海の水を地下に送り込むシステムでもあります。その海水は、地下深部では高い土圧で押し出され、周辺の岩盤の中に広がって、地熱で温められて上昇していきます。従って「有馬型温泉」も、大昔に土砂と一緒に運び込まれてきた海水のなれの果てかもしれません。むしろ、海水が塩水なのは、長い間に地球の中から少しずつ浸みだした、地球本来の水が塩水であったからかもしれません。それなら、一度も地表に出たことのない塩水が、どこかに溜まっているかもしれません。

 結局、地下の深部には塩水が広がっているのが普通で、淡水があると考える方が不自然ではないでしょうか。この塩水の上に、降雨が浸みこんだ淡水の地下水の流れが乗っています。それに、川の水の流れが加わって、地下浅い部分の水循環が形成されています。

温泉は地下からの手紙

 地下深部に運び込まれた海水は、日本列島では、火山の元である「マグマだまり」を作ります。地下深部の岩盤、マントルと呼ばれ浅い部分の岩石とはずいぶん違いますが、マグマは高温ですが固体です。そこに水が加わると、溶融温度が下がり、マグマ(溶けた溶岩)になります。マグマは上昇して、周辺の岩盤を溶かして混ざったり、浅いところのマグマだまりで性質が変わったり、様々なことがあって、地表に現れたときには、溶岩はいくつもの種類になり、いろんな火山を作ります。

 火山の元を作った水、地下深部では圧縮された水蒸気ですが、周辺の岩石と反応し岩石がさまざまに変化する手助けをします。そして、地表から浸みこんできた水と一緒になり、多くの元素を溶かしこんで、地表に上がっていきます。

 日本の金属鉱床の多くは「熱水鉱床」と呼ばれ、地下深部から上昇する水の働きで作られます。たとえば金鉱床は、熱水が堆積岩の中に含まれる微量の金を溶かしこんで地表近くまで上昇し、冷えてそこに金を沈殿させることで作られます。下北半島の火山、恐山では湧き出す温泉が金を沈殿させています。

 地球の深部から、多様な元素を溶かしこんで地表に湧き出す水、私たちは温泉として楽しんでいますが、それは地下からの手紙のようなものです。地下から上がってくる火山のマグマ、地下深部から地殻の動きで地表に顔を出した岩石なども、地下の情報を私たちに伝えますが、温泉は、列島のいたるところで、しかも近い過去の状況を、場合によっては時間変化を伴って伝えてくれます。水は流れることで、情報を伝達しているのです。

 100年から200年ごとに繰り返し発生した、東海・南海地震では、松山(伊予)の道後温泉や熊野の湯の峰温泉の湧き出しが止まったということが、日本書紀以下の記録に残っています。これも地下の水の流れが伝える情報といえます。私たちが、その意味をちゃんと理解できているかはともかくとして。

吉田堯史|2018/3/1 公開

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