水の大循環と水問題

水の大循環

 地球表面では、海洋(水圏)から蒸発した水分が大気中で雲(細かい水滴や氷粒)を形成し、大気の動きに乗って陸域生活圏に降水(雨や雪)としてもたらされます。その内一部は蒸発して大気に戻り、残りの大部分は液体の水として河川水・湖沼水・地下水となり、最終的に海洋に戻るような流動系が作られます。これを水の大循環と称します。

 毎年、日本列島におよそ6000億トン程度の水がもたらされます。そのうち、降雨時に河川から直接海に流れ出るものが1000億トン程度、蒸発散で2000億トン程度が失われるとされ、残りは深い地下水や常時の河川を流れる水(地下水の湧き出し)となります。我々が利用する水は、その内800億トン程度と推定されます。

 水の大循環は時には激しく変動し、陸域の風化・浸食、崩壊、固体の運搬・堆積などの作用を行い、地形を刻み、地層を形成してゆきます。私たちがみる自然の素晴らしい風景は、多くのものが水に関係しており、極めて長い時間にわたる水循環の変動により生み出されたものといえます。

文明と水問題

 このような水の大循環は、陸域自然環境を形成する最大要因であり、そこに住む人間および動植物に必須の恵みをもたらすと共に、時として水災害・土砂災害によりそれらを破壊する主体ともなります。このような水循環と人間活動の関わりで生じる問題は「水問題」と呼ばれ、21世紀に文明が直面する最大の課題の一つと考えられています。

 水問題には、大きく、水資源、水災害、水環境の側面が挙げられます。これらは、国・自治体が担う水行政(環境からの恩恵の最大化・被害の最小化・環境への加害の最小化など)と関連し社会設計の基盤をなす大変重要なものと考えられます。

水資源問題:河川、ダム湖、自然湖などの表流水資源の確保、渇水の回避、地下水資源利用・枯渇の回避、水質悪化防止など。

水災害問題:河川洪水・氾濫の低減、土砂災害(斜面崩壊、土石流など)の低減、地盤沈下、液状化、津波などの被害低減

水環境問題:湖沼の広域汚染、地下水汚染、土壌汚染、湿地環境保全。都市水・熱環境改善、地中熱利用、廃棄物処分(一般廃棄物、放射性廃棄物など)に関わる水問題など。

水問題と陸域水循環シミュレーション

 我々は自然の作るシステムと人工物のシステムの中に生きています。実際の水問題の対策を立てるためには、これらの複合システムに起こる流れの様子を捉え、水問題を論じねばなりません。

 しかし水問題の場は一般的に大きな流域スケールとなり、如何に専門知識があっても人間個人の頭では捉えることは極めて難しくもちろん簡単に計算できるものでもありません。

 そこで水の動きに関連する自然条件(気象条件、地形条件、地質・水理条件)、人工物および人間活動の情報を集約して計算機上に“模擬流域”(モデル)を作りだし、数値シミュレーションにより追跡しようという発想が出てきます.これ自体も大変難しいことに変わりはないのですが“水は方円の器に従う”と言われるように、その流れは物理法則に素直に従いますので、情報に整合的に注意深くモデリングしシミュレーションを行えば、現象のより深い理解、より信頼性のある定量的評価につながります。

 人間は自然の全てを知ることはできませんが、流域情報を総合的にモデルに反映することで、その出力から次第に部分と全体が見えてきます。どのような対策をとればどのような効果があるかなど、現実には試せないことを、モデルを使うことでいくらでも試すことができ、適切な対策を選択することができます。

登坂博行|2018/3/1 公開

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